写真館の思い出

私と母の成人式

私がメイクアップを、初めてプロの人にしてもらったのが成人式です。かすみ草の花を飾り、髪を結い上げてもらった時の気持ちは今でも覚えています。

 

少し緊張しながらも、嬉しさが顔ににじみでていたでしょう。そして母が二十歳の時に着た、桐の模様の入った着物を着付けてもらい、鏡に写った時、自分は成人したのだなと実感しました。

 

写真室に入り素敵な椅子に腰掛け、着物の裾や、草履の位置、手の置き方を優しく直していただき、いざ写真撮影です。

 

少し笑って下さいとか、遠くを見て下さいとか上手に誘導していただき、成人の写真を撮り終えました。写真室の隅で、終始にこにこして見ていた両親の表情が、とても印象的だったのを覚えています。

 

あれから何十年もたち、今私と同じ桐の模様の着物を着て、にっこりと笑っている私の娘の写真があります。私の二十歳の写真と並んで飾ってあるのです。

 

よく見ると、私の方は少しソフトフォーカスがかかっていて、やや時代を感じます。娘の方は、シンプルできりりとした今風の雰囲気です。

 

この二つの写真を見ると、家族だけでなく友人が遊びに来た時なども、きゃあきゃあと大盛り上がりです。写真館で写真を撮っておいて、当に良かったと思う瞬間ではないでしょうか。

 

子供の七五三

ちょうど五歳と三歳の時、上の男の子二人が同時に写真館で写真を撮りました。

 

海外の転勤が決まっていたため、まとめての七五三となりましたが、子供達は大はしゃぎです。

 

羽織袴での撮影と、タキシードでの撮影に興奮状態もピークに達していたのを今でも覚えています。自分で選びたいと上の子は紺と白の羽織袴に日本刀を持ち構えます。下の子も負けじと黒と白の羽織袴で大きくポーズをとり二人とも大満足。泣くこともなく終始スムーズに撮影を終えました。

 

次にタキシードです。二人とも紺色と黒色でビシッと決め、黒の革靴を履き、小さなブーケを下の子が持ち、見つめ合うショットです。なんとも愛くるしく少し涙が出てきそうになりました。

 

写真館での撮影がほどよい緊張感と、高揚感を心地よく感じさせてくれて、本当にここまで丈夫に育ったなと主人と感動し合ったのを覚えています。

 


今その写真は、木枠の二つ折りになる大きな写真立てに入れられ、寝室に飾られています。その写真が眺めるたびに、あの時子育てでこんなことに悩んでいたなとか、沢山笑い転げたことなどを思い出すのです。まさに写真は、一瞬でその時の世界に戻してくれる、魔法なのかもしれません。

 

大家族写真

父の75歳の誕生日が近くなった時、写真館で記念写真を撮りたいと言ってきました。

 

兄家族と私たち家族、そして両親とで総勢11人の大所帯です。すぐに写真館に予約を入れることにしました。

 

その時から何を着ていこうかとか、少し足が悪くなってきた父を、写真館へ連れて行く方法などあたふたと考えます。でも何故かどこかうきうきしていたのを今でも覚えています。

 

皆で写真を撮るだけなのに、こんなにも楽しみな気持ちがわき上がってくるのは、きっと今まで写真館で撮ってきた、たくさんの思い出がそうさせているからなのでしょう。

 

撮影の当日は、子供達も皆小学生以上ということもあり、時間をかけることなくスムーズに、そして終始和やかに撮影が終了しました。その写真は今も実家のリビングに飾られています。お盆や年末年始に皆で集まるたびに、何年前になる?とか、この頃髪の毛長かったねとか、今何センチ身長のびた?などと写真を囲み話がとまりません。そしてそこから次々と、今の子供達の部活や勉強の話などに発展し、本当に楽しいひとときを過ごせるのです。それが写真の持つ大きな魅力なのかもしれません。

 

 

両親の遺影

両親が80歳になった時、写真館で遺影を撮りたいと言ってきました。その時は本当に驚きましたが、その後のことをきちんと考えている両親の姿勢に、心から凄いなと思ったのを覚えています。そして私も見習いたいと思いました。

 

父は紺色のお気に入りのジャケットに、爽やかなピンク色のシャツを着て、母は愛用している上下グレーの、きりっとしたスーツを着て撮影に臨みます。いつもの日常よりしゃんとした姿は両親の老いを感じつつも、しっかりとした力強さも伝わってきてとても感動しました。

 

きれいな明るめの背景に、にこりと少し笑った二人それぞれの表情は、私がものごころついた頃から見ている笑顔です。自分も年齢を重ね子育てをして、真から両親のありがたさがわかってきた頃に、この遺影の撮影は多くのことを考えるきかっけになりました。撮影後、これで写真は揃ったから安心したよ、と言った父の顔は今でも覚えています。そしてその写真はまだ使われることなく、ひっそりと保管されています。

 

海外の写真館

海外駐在の頃、写真館で記念の家族写真を撮りました。

 

それは日本の写真館の撮影方法とはまるで違い、自由なポーズと自由な動きを求めてくるものでした。昔からしっかりと正面を向き、少し微笑むというポーズになれている日本人にとってこれほど難しいものはありません。

 

少々パニックになりながら、写真家の人の優しい誘導で、なんとか緊張がほぐれてきました。家族全員で大笑いしているシーンや、足を組んだり、後ろから子供をハグしたりと、きちんと並んだ写真は撮ってはくれません。

 

カルチャーショックを受けつつも、撮影が終わり、できあがった写真に家族で大感動しました。こんなかわいいい表情するんだね、嘘みたいにいい瞬間だね、こんなお行儀の悪い格好をしてるのにとても楽しそうで面白いねとか、とにかく通常の写真館の写真とは全く違う仕上がりに、驚きと感動が止まりません。

 

今でもこの中のお気に入りの家族写真は、リビングに飾られています。この時の写真館での変な居心地の悪さや、日本人の常識を覆す感覚、とにかくいろんなことがごちゃ混ぜになり、最後にはなんだかとても楽しかったという思い出になっているのです。これこそがスタジオで撮ってもらう写真の相乗効果なのかもしれません。

 

 

 

5つのエピソードをお話ししました。人生の節目に、写真館で撮ってきた数々の写真を眺めることは、私にとって大きな喜びです。あの時は小さくて大変だったとか、あの服はかわいかったねとか、家族でたくさんの思い出を話すことができるのが写真です。

 

そして写真館で撮った写真には、何故か不思議な魅力があります。それは写真家の方の、和やかな言葉や、子供を必死であやしながら良い表情の瞬間を撮り続ける、プロフェッショナルな技術があるからではないでしょうか。これら全てが何か特別で、心に残る思い出として家族一人一人の中に刻まれるのです。そして次の代へと間違いなく受け継がれていくことでしょう。

 

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